鈴木 剛; 滝上 英孝; 渡部 真文; 高橋 真; 能勢 和聡; 浅利 美鈴; 酒井 伸一 (2012) 第21回環境化学討論会講演要旨集, pp. 360-361
【はじめに】
我々の研究グループは、曝露源としての重要度が近年増している室内ダストを対象として難燃剤(FRs)等の樹脂添加剤の存在や濃度レベルを明らかにし、これらを含有する製品の使用実態や使用時の曝露状況について調査・研究を行っている。その一環として実施した研究では、2005 年に日本国内の一般家庭及びオフィス等で採取したダスト中の臭素化ジフェニルエーテル(PBDEs)を測定し、その濃度レベルが欧州諸国等よりも高く、汚染度の高い北米に匹敵することを明らかにしている1。PBDEs が高濃度に検出される原因を追究した研究では、室内ダストが室内で使用している製品から放散・剥離等により排出した臭素系難燃剤(BFRs)の吸着の場であることを明らかにし2、室内ダストに着目した研究展開の重要性を指摘した。
室内ダストに着目した研究は、個別の化学物質分析によるアプローチに加え、毒性指標(エンドポイント)に応じて化学物質リスク(ハザード×実測濃度)を包括的に検出して関連する化学物質の検索同定を行うin vitro バイオアッセイ/化学分析統合手法を用いても展開している。一般家庭や事業所・大学等のオフィスから採取した室内ダスト中のフェノール系化合物を対象とした研究では、EU におけるBFRs のリスク評価プロジェクト(FIRE2006 年6 月終了)でもエンドポイントして採用された甲状腺ホルモン運搬タンパクへの競合結合活性を評価するin vitro バイオアッセイ法3 を適用して、関連物質の包括的評価を実施した4。当該研究の結果、2,4,6-トリブロモフェノール(TriBPh)が主要な関連物質として同定された。室内ダストを対象として定量分析を実施した結果、2,4,6-TriBPh は全てのダストで検出され(中央値:66 ng/g、範囲:16~620 ng/g、n=33)一般家庭や事業所・大学等のオフィスに遍在することがわかった。
2,4,6-TriBPh は、BFRs のひとつであるが、1,2-ビス(トリブロモフェノキシ)エタンの合成原料や末端封止型テトラブロモビスフェノールA カーボネートオリゴマー等の末端封止(エンドキャップ)剤としても使用されている。しかしながら、このようなBFRs 中の2,4,6-TriBPh の分析調査例はほとんどない。そこで本研究では、2,4,6-TriBPh を原料としているBFRsを対象として、2,4,6-TriBPh の定量分析を実施した。